No.16

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映画「黒い司法 0%からの奇跡」の感想

映画「黒い司法 0%からの奇跡」を見てきました!コロナのせいか、客席は割と空きがありましたが、ものすご~く満足度の高いいい映画でした!ネタバレありで、感想を書いていきたいと思います!

 

基本情報

黒い司法は、実在の弁護士のブライアン・スティーブンソンが歪んだ司法システムに抗う様子を描いたヒューマンストーリーです。詳しいあらすじやらキャストやらは、公式HPをご覧ください。

wwws.warnerbros.co.jp

 

感想

実話を丁寧に伝えようとする完成度の高さに好感

全体的な印象として、とにかく実話を丁寧に伝えようとしているなと感じました。やたらとドラマチックにしない演技や脚本に、ムダなロマンスなどを入れずに話の本筋だけを丁寧に描く構成で素直に話に没頭することができました。音楽や演技で無理やりに山場を作るのではなくひとつひとつの場面や心境を丁寧に描くことで、ドラマチックでなくても心にずっしりくるいい映画に仕上がっていると思います。実際、コロナで閑散とした映画館でも複数場面であちこちから涙ぐむ音が聞こえてきました。

これは、やはりモデルの弁護士のブライアン・スティーブンソンが信念を持って作った映画だからなのかな、と思います。エンターテイメントとしてではなく問題提起として人々に伝えたい、そんな思いを感じました。とはいえエンターテイメントとしても十分によくできた映画だと思います。

登場人物ひとりひとりが魅力的

この映画は、登場人物がそれぞれとても魅力的に描かれているのが印象的でした。

主人公のブライアン・スティーブンソン(マイケル・B・ジョーダン)は、とにかくいい男。笑 正当な弁護なく死刑にされようとする人々を救うべく、信念を持って奔走します。途中何度も理不尽な目にあってきますが、いつもグッとこらえて声を荒げることなく紳士的に対応するのが素敵でした。正義を通すためには多少の悪が必要になることはよくある事で、もう少し途中ずるい手を取ったりするのではないかと思っていましたが、始終正しいことしかせず人とちゃんと向き合うことで解決に導いたというのがすご~く価値のあることだと思います。ちなみに、黒人であるがゆえに本来なら刑務所に入るために不要である身体検査を理不尽に受けさせられるシーン、差別の根強さを感じるべきシーンなんでしょうが「良い身体してるなぁ…」という気持ちでいっぱいでした、ごめんなさい。

完全なる冤罪で死刑判決を受けてしまうウォルター・マクミリアン(ジェイミー・フォックス)。これまで散々不当な扱いを受けてきた結果、最初にブライアンが面会に来たときは完全に諦めモード。それでもブライアンが親身になって救おうとしていくうちに、少しずつ心を開いていく様子が素敵でした。明らかに冤罪である証拠を並べたにも関わらず再審請求が却下されたあと、大人しく独房に入らずに暴れてしまって懲罰室?のようなところに入れられてしまったときは辛かった…。ですが、そのあとブライアンが再度面会に訪れた時の彼は本当に素晴らしかった!「弁護をやめるつもりでないなら、謝る必要はない。俺は逮捕されてから犯人だと言い切られ自分でもよく分からなくなってきていた。それが、今回ようやく自分を取り戻したんだ…!」的なことを言うんですよね。「自分が人を殺していない」という確信を持てた、と。この場面、無実の罪で捕えられることでどれだけ心を壊してしまったかがよく分かるし、ブライアンが居てくれたことでどれだけ救われたのかのもよく分かる。そして、死刑が覆ると信じていたのにそれが駄目だったことで絶望したにも関わらず、そこからブライアンに感謝している、といえる素晴らしさ。このシーンはこの映画で2番目に好きなシーンです。

また、演技が特に光っていたのはラルフ・マイヤーズ ( ティム・ブレイク・ネルソン)。自分の刑を軽くするために司法取引で嘘の証言をしてウォルターを陥れる、という最初は悪役と思われるポジション。初登場時も、飲み物をよこせ~だグミをよこせ~だかなりふてぶてしい感じです。ブライアンが証言をただすように説得しても耳を貸さないですが、ウォルターの家族の話をすると顔色が変わり、ヒントともとれる様な発言をして逃げるように面会を終える。この時点では、「根からの悪人ではないんだろう…でも自分が大事なんだな…」くらいの印象ですが、2回目の面会の時にがらっと印象が変わります。ふてぶてしい感じやにやついた感じは変わらないんですが、その奥にある「怯え」が2回目の面会の時には色濃く出てくるんですよね。その微妙なさじ加減がすごい役者さんだな、と思いました。トラウマ刺激されてむちゃくちゃされたら、自分を守るほうに走ってもしょうがないよなぁ…。このあたり、ただ単に「黒人差別」を描いた映画ではなく、司法の不備だったり人の良心だったりを描いた映画なんだろうなぁ、と感じます。再審要求のための審議会で証言をするマイヤーズは怯えながらもかっこよかったです。「俺はどうなってもいい、ウォルターを家族のもとに返してあげろ」と。酷い脅迫を受けて嘘の証言をした彼が、発言を撤回するにはすごく勇気が必要だったと思います。それをできたのは、彼の良心と、ブライアンの実直さのおかげなんだろうなと。

囚人仲間のハーバート(ロブ・モーガン)とアンソニー(オシェア・ジャクソン・Jr)もいい味出していました。戦争の後遺症で精神を病んでしまいよく分からないままに作った爆弾で少女を殺してしまい死刑判決が出たハーバート、裁判もないままに無実の罪で捕まったアンソニー、二人とも本来であれば死刑になる必要なんてないんです。この二人とウォルターは監獄の中で仲良くなっていて独房の壁越しにお互いを励ましあうのですが、そのシーンがどれも愛情にあふれていてすごくいい…!ハーバートは残念ながら判決が覆らずに死刑が執行されてしまいますが、その死刑執行の様子もストーリーの中でものすごく効果的に描かれていました(実話なので、実際に亡くなった人のことをこんな風に言うのもどうかとも思いますが…)。死刑執行の場面を丁寧に描くことで、死刑執行の非情さ・辛さがよく伝わってきます。執行場にはハーバートひとりだけれど俺たちがついている、ということで檻に金属のコップをぶつけてみんなが音を出すんですよね。それは優しさだし支えには違いないんだろうけれど、金属音がひどく冷たくて煩くて心がぎゅっとします。かなり印象に残ったシーンでした。そして2点目として、ブライアンがこの執行に立ち会うことでマイヤーズが何故嘘の証言をしたのか?ということに気付くヒントになるんですよね。死刑執行は誤りだし本当に酷いことではあるんだけれど、全くもって無駄な死ではなくウォルターが解放されるきっかけとなった、と思うと少し救われた気持ちになれます。

他にも、黒人差別のふてぶてしい態度からだんだん寄り添うようになる白人看守だったり、周りからの脅迫や嫌がらせに負けずにブライアンをサポートする肝っ玉おかあちゃんだったり、まぁ素敵な人がたくさん出てくるんですが、書ききれないのでこのあたりで…。

一番好きなシーン

なんといっても、ウォルターが釈放されるシーンが感動的でした。ウォルターを送り出すために、囚人仲間が檻に金属の器をあてて音を鳴らすんです。これ、ハーバートが処刑されるときと同じ音なわけですが、響きが全然違う!処刑の時はかん高くて痛々しい音だったのが今回はすごく柔らかくて暖かい音で…。同じ「監獄からいなくなる」だし、同じ「俺たちは仲間だ」には違いないんだけれど、込められた気持ちは180度違うのがその音から如実に伝わってきて、もう涙なしには見られなかったです。

単に黒人差別の話ではない…

この映画、黒人差別という切り口で基本的には語られているような気がしますが、全体を見ると迫害されているのは黒人だけではない。ウォルターのパートナーのエバであったり、偽の証言を迫られたマイヤーズであったり、世間にとって都合の悪い人たちは非道な方法で苦しめられる。うまく言えないけれど、人々の良心であったり正しさを追求する心が問われているんだろうなと。

物証なしで嘘の証言だけで死刑、明らかにおかしいのに再審請求が却下される、歪んだ世の中だなと思います。これが30年前に本当にあったのか、と驚く気持ちもあります。ただ一方で、現在の日本も大差ないよなぁと思ってしまった。何とは言わないけれど、明らかにおかしいことが権力でゆがめられて正とされる…異常だよなぁ…。

邦題いまいちすぎない…?

「黒い司法」も微妙だし(まぁ本のタイトルだから映画のせいじゃないのかもしれないけれど…)「0%からの奇跡」のサブタイトルも微妙。せっかく本編が真面目にドラマチックにしすぎずに事実をちゃんと伝えようとしているのに、なぜタイトルだけそうなる!?まぁ、売るためにはしょうがないのかな…でもそんなに売ろうとしているように見えないんだよな…。タイトルは唯一この映画で不満だ…他は素晴らしいです。

まとめ

ここまで書いてもまだ書き足りないくらいですが、本当に素敵な映画です!なぜか上映館少ないようですが、ぜひ見ていただきたい!

ブライアン本人が出ているTEDの動画も見て、そちらも素晴らしかったのでまた時間をみてコメントを書きたいと思います!